NRI 未来年表 2025-2100 を読む — 決まっている未来は人手不足と脱炭素
年表の大半は、政府と国際機関がすでに公表した予定・目標・推計の索引で、NRI の未来像を語る資料ではない。一番確かなのは人口で、2040 年に労働力人口が 6,195 万人に減り、医療・福祉の就業者が製造業に並ぶ。人手不足で自動化せざるを得ない日本と、コストが下がるから自動化が進む ARK は、理由が違って方向が揃う。電力も両方が伸びると見る。一方、量子技術 (2030 年に生産額 50 兆円) と水素は政府の目標で、ARK は量子を 20〜40 年先と切り、水素には触れていない。目標は予算の出どころとして読み、市場が育つ根拠にはしない。
出典
野村総合研究所の NRI 未来年表 2025-2100 (2024-11-28 公開、8 ページ、PDF は無料)。2026-09-27 に読んだ。2024 年 10 月時点で公表されて いた予定と予測をまとめたもの。次の版はまだ出ていない。
中身は 2 つ。4 本のコラムと、2025 年から 2100 年までの年表。年表は「政治・社会」「経済・ 産業」「国際」「NRI 予測」の 4 列で、NRI 予測の列以外は各項目に出どころ (省庁、国立社会保障・ 人口問題研究所、国際エネルギー機関など) が付いている。NRI 予測は断りが無ければ日本国内の 市場の予測。
予測の要旨
年表の項目は、確かさの違う 3 種類が混ざっている。表では「種類」の列で分けた。
- 推計: 人口推計のように、今の数字から機械的に出るもの。ほぼ確実
- 目標: 政府が掲げる目標や予算。お金は出るが、達成するかは分からない
- NRI 予測: NRI が出した国内市場の予測
| テーマ | 時期 | 種類 | 中身 |
|---|---|---|---|
| 人口 | 2027 年 | 推計 | 高齢化率 30% |
| 人口 | 2032 年 | 推計 | 生産年齢人口 (15〜64 歳) が 7,000 万人を割る |
| 人口 | 2040 年 | 推計 | 労働力人口が 6,195 万人に減り、65 歳以上が 19%。医療・福祉の就業者が卸売・小売を上回り、製造業全体に並ぶ |
| 人口 | 2040 年度 | 推計 | 介護人材が約 272 万人要る (2020 年は約 215 万人) |
| 人口 | 2056〜2100 年 | 推計 | 総人口が 1 億人を割り、2100 年に 6,278 万人。2070 年に外国人が 12.4% |
| 住宅・インフラ | 2028〜2043 年 | NRI 予測 | 空き家率が 15.5% から 25.3% へ |
| 住宅・インフラ | 2040 年 | 推計 | 建設から 50 年を超える道路橋が 75% |
| 住宅・インフラ | 2042 年 | 推計 | 築 40 年超のマンションが 445 万戸 (2022 年の約 3.5 倍) |
| 住宅・インフラ | 2035〜2040 年 | NRI 予測 | 住宅建設の技能者が 58 万人から 51 万人へ |
| 物流 | 2030・2035 年度 | NRI 予測 | 物流倉庫の着工床面積が 2022 年度比で 17.5%、18.9% 増える |
| 物流 | 2032 年 | NRI 予測 | 関東の大都市圏で冷蔵倉庫が 10 万トン足りなくなる |
| 自動運転 | 2025・2027 年度 | 目標 | 高速道路でトラックの自動運転 (レベル 4)。無人の自動運転移動サービスを全国 100 か所以上 |
| ロボット | 2035 年 | 目標 | ロボット産業の市場規模 9.7 兆円 |
| 電力・AI | 2026 年 | 推計 | データセンターや AI の電力需要が世界で 800 TWh (2022 年は 460 TWh) |
| 電力 | 2050 年 | 推計 | 世界の最終エネルギー消費に占める電力の比率が 20% から 40% 超へ。発電の 70% が太陽光と風力 |
| 脱炭素 | 2026 年度 | 目標 | 排出量取引制度が本格稼働。2028 年度に化石燃料賦課金 |
| 脱炭素 | 2033 年度 | 目標 | 国の GX 経済移行債による先行投資支援が 20 兆円規模。官民の GX 投資が 150 兆円超 |
| 脱炭素 | 2040 年 | 目標 | 洋上風力の国内調達率 60%。半導体・情報通信産業のカーボンニュートラル |
| 水素 | 2030・2050 年 | 目標 | 水素の供給量が年 300 万トン、2,000 万トン (2022 年は約 200 万トン) |
| 半導体 | 2030 年代後半 | 目標 | 半導体パッケージの中で光と電気を融合する技術 (光電融合) が実現 |
| データセンター | 2027 年 | 推計 | 国内のデータセンターサービス市場が 4 兆 1,862 億円 |
| 量子 | 2030 年 | 目標 | 量子技術の利用者 1,000 万人、生産額 50 兆円 |
| 宇宙 | 2030 年代早期 | 目標 | 宇宙産業の市場規模 8 兆円 (2020 年は 4 兆円) |
| 循環経済 | 2030・2050 年 | 目標 | サーキュラーエコノミー関連の市場が 80 兆円、120 兆円 (2020 年は約 50 兆円) |
| 国際 | 2026 年 | 推計 | ASEAN 10 か国の名目 GDP の合計が日本を超える |
| 国際 | 2030 年まで | 推計 | 中国の原子力発電の設備容量が米国を抜いて世界 1 位。世界の化石燃料の需要がピーク |
コラムの 4 本は、シンセティックデータ (AI の学習用に作る合成データ)、備えない防災 (日常品を そのまま災害時に使う)、森林カーボンクレジット、デジタルを使った「関係人口」の地域づくり。
読み
構図。 この年表は NRI の未来像を読む資料ではなかった。大半は政府と国際機関がすでに公表 した予定・目標・推計の索引で、NRI が書いているのは国内市場の地味な予測とコラムだけ。「なぜ そうなるか」はほとんど書かれていない。ARK が技術のコストの曲線から未来を描くのに対し、 こちらは「日本ですでに決まっている未来」を並べている。着想の源というより、日本の予定表と して手元に置く使い方になる。
腹落ちした点。
一番確かなのは人口。2040 年に労働力人口は 6,195 万人まで減り、そのうえで介護人材は 57 万人 多く要る。医療・福祉の就業者が製造業全体に並ぶ。住宅の技能者も減り、道路橋の 4 分の 3 が 築 50 年を超える。人が足りないまま、直すものと世話をする人は増える。
自動化の筋が太い。ARK は「コストが下がるから自動化が進む」と書いた。この年表からは「人が いないから自動化せざるを得ない」が読める。理由が違って方向が揃うので、ロボット、自動運転、 物流の省人化は、片方が外れても残る。
電力も揃う。年表が引く国際エネルギー機関の推計では、データセンターと AI の電力需要が 2026 年に 800 TWh、2050 年には最終エネルギー消費の 40% 超が電力になる。ARK の「発電投資 2 倍、蓄電 19 倍」と同じ向き。
国のお金の流れは読める。GX (グリーントランスフォーメーション) は、化石燃料に頼る産業と社会 をクリーンエネルギー中心に切り替え、脱炭素と経済成長を両立させる政府の政策。国は GX 経済 移行債で 10 年に 20 兆円規模を先に投資し、その返済に排出量取引 (2026 年度) と化石燃料賦課金 (2028 年度) の収入を充てる。これを呼び水に、官民で 150 兆円超の投資を見込む。達成するかは 別として、予算として出ていく。注文の流れとして読むなら、目標より予算の方が確か。
疑う点。
目標と予測が同じ表に並んでいる。量子技術の「2030 年に利用者 1,000 万人、生産額 50 兆円」は 政府の目標で、ARK は同じ量子を「20〜40 年は破壊的にならない」と切った。水素も、政府は 2050 年に年 2,000 万トンを掲げるが、ARK は一度も触れていない (太陽光・電池・原子力に賭けて いる)。2 つの資料が食い違うところは、政府の目標に乗る話と見て、市場が育つ根拠にはしない。
脱炭素そのものは進まないと見る。 年表自身に「2028 年までに世界の平均気温が 1.5 度の上昇を 超える可能性が 80%」(世界気象機関) と載っていて、目標の方が先に崩れかけている。脱炭素の目標は 達成されない前提で読む。そのうえで、脱炭素と電力への投資は分けて考える。電力の需要が伸びれば、 脱炭素が進まなくても発電と送配電への投資は起きる。見るのは、脱炭素ではなく需要の伸びで起きる 投資の方。
| 例 | 扱い | |
|---|---|---|
| 脱炭素が進む前提で伸びるもの | 水素、洋上風力、カーボンクレジット、排出量取引 | 避ける |
| 脱炭素が進まなくても伸びるもの | ガスタービン、送配電、変圧器、原子力、データセンター向けの電源 | 見る |
GX の 20 兆円も、「脱炭素が進むから」ではなく「国の予算が出ていくから」という読み方に限る。
NRI 自身の予測は小さい。リフォーム市場は 8.0 兆円から 2040 年に 8.9 兆円、新設住宅着工は 85 万戸から 78 万戸。10 倍株が生まれる規模の変化はここには無い。
ARK との突き合わせ。
| 揃う | 食い違う | |
|---|---|---|
| テーマ | 自動化 (ロボット、自動運転、物流)、電力 | 量子、水素 |
| 読み | 理由の違う 2 つの資料が同じ向き。筋が太い | 政府の目標だけが支えている。慎重に見る |
当たりの目印
| 時期 | 目印 | 進んでいるなら |
|---|---|---|
| 2026 年度 | 排出量取引制度 | 予定どおり本格稼働する |
| 2027 年度 | 無人の自動運転移動サービス | 全国 100 か所以上 |
| 2027 年 | 国内のデータセンターサービス市場 | 約 4.2 兆円 |
| 2030 年 | 水素の供給量 | 年 300 万トン。届かなければ水素は目標だけの話と見る |
| 2030 年度 | 物流倉庫の着工床面積 | 2022 年度比 17.5% 増 |
| 2033 年度 | GX 経済移行債の先行投資支援 | 20 兆円規模が出ていく |
| 2035 年 | ロボット産業の市場規模 | 9.7 兆円 |
恩恵を受ける工程
| テーマ | 工程 |
|---|---|
| 物流の省人化 | 自動倉庫や搬送機器 (マテハン)、冷蔵倉庫、トラックの自動運転 |
| 建設と介護の省人化 | 建設機械の自動化、施工の省力化、介護ロボットや介護の DX |
| インフラと建物の更新 | 道路橋の点検・補修、老朽マンションの修繕・建替え |
| 電力 | 送配電の設備、変圧器、ガスタービン、原子力、データセンター向けの電源。脱炭素が進む前提の水素・洋上風力は外す |
| データセンター | 国内のデータセンターの建設・運営、光電融合など省電力の半導体部材 |
ARK と合わせて散策の順を決めるなら、両方が揃った電力と自動化を先にする。ARK の記事で 2 番目に置いた電力は、この年表でも裏が取れた。自動化は、ARK が汎用ロボットの新興を主役に 置くのに対し、日本では物流・建設・介護の人手不足に直結する地味な省人化の方が注文が確かに 見える。
見直し
2026-09-27 に本文を確定した。以後、本文は書き換えず、ここに日付つきで追記する。
この予測から辿った記事
まだ無い。