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ハーモニック・ドライブ・システムズ (6324) — 底から戻った減速機の専業

営業利益は 2 期ほぼゼロから 2026/3 期に 25.7 億円へ戻り、会社予想の 2027/3 期は 85 億円 (利益率 11.4%)。戻したのは工場の稼働率の上昇で、売上総利益率は 26.7% から 30.4%、第 1 四半期は 35.6% まで上がった。第 1 四半期の受注は +55.7% で、北米の手術支援ロボット向けと先端半導体向けが引いた。AI ロボットは、2026/3 期に北米の顧客の量産移行で受注を得たと書くが、金額も顧客名も出ていない。会社は同じ期に、AI ロボットの社会実装が中期計画の想定より遅いとして、2026 年度に売上 900 億円・利益率 15〜20% の目標を取り下げ、2030 年度に 1,000 億円・15% へ延ばした。株価は 1 年で 2.3 倍になり、2026-07-06 の高値 8,890 円から 29% 下げた。予想 PER は約 99 倍、PBR は 7.3 倍。上方修正を出した翌営業日に 10.9% 下げている。

波動歯車減速機 (ハーモニックドライブ) の専業。東証プライム、機械。決算期は 3 月。精密減速機の 単一事業で、報告セグメントは所在地 (日本、中国、北米、欧州) で切っている。売上の 8 割弱が 減速装置、2 割強がモーターやセンサーを組み合わせたメカトロニクス製品になる。

フィジカル AI の地図 では駆動部品の工程に置き、減速機の 専業でヒューマノイドの関節に最も近い会社として候補に選んだ。

指標 (2026-09-25 時点)

項目 値
市場 東証プライム
業種 機械
株価 6,300 円
時価総額 5,964 億円
予想 PER 99.4 倍
PBR 7.33 倍
予想 ROE 7.4%
配当利回り (予想) 0.32% (年 20 円)
自己資本比率 71.9%
手元資金の純額 99 億円 (時価総額の 1.7%)
250 営業日の高値比 71%

利益に対して株価が高い。予想 PER 99 倍は、今期の予想 (営業利益 85 億円) をさらに何倍にもする 成長を織り込んだ値になる。2026/3 期の実績 ROE は 2.0% で、今期の予想でも 7.4% にとどまる。 PBR 7.3 倍を、今の稼ぐ力では説明できない。

利益は 2 期ゼロから戻り、今期は過去最高の売上を見込む

期 売上高 営業利益 経常利益 純利益 営業利益率
2021/3 370.34 — 13.67 6.62 —
2022/3 570.88 — 91.08 66.44 —
2023/3 715.27 — 107.58 75.96 —
2024/3 557.96 1.25 5.70 -248.07 0.2%
2025/3 556.46 0.07 1.51 34.74 0.0%
2026/3 595.58 25.68 25.40 16.09 4.3%
2027/3 予想 745.00 85.00 82.00 60.00 11.4%

単位は億円。2023/3 期までの営業利益が空いているのは欠損ではない。有報の「主要な経営指標等」に 営業利益が載らないため、当期と前期しか遡れない。2023/3 期の経常利益率は 15.0% だった。

2023/3 期に 715 億円まで伸びた売上は、翌期に 22% 落ちて 2 期そのまま止まった。その 2 期、 営業利益はほぼゼロになる。2026/3 期に売上が 7.0% 戻ると、営業利益は 25.7 億円へ跳ねた。 会社予想の 2027/3 期は売上 745 億円で、2023/3 期の水準を超える。

利益を戻したのは工場の稼働率になる。売上総利益率は 2025/3 期 26.7% → 2026/3 期 30.4% と上がり、 第 1 四半期は 35.6% (前年同期 28.4%) まで来た。販管費は 148.5 → 155.7 億円とほぼ横ばいで、 増えた粗利がそのまま営業利益に落ちている。会社は「日本セグメントの工場稼働率の上昇を背景に 製造原価率が改善した」と説明し、製品の値上げと全社のコスト削減も挙げている。固定費の重い 工場で、売上が少し戻るだけで利益が大きく動く形をしている。

純利益の動きは営業と別物になる。2024/3 期の -248 億円は特別損失 281.6 億円による。2017 年に 子会社にし、2021 年に完全子会社にしたドイツのハーモニック・ドライブ・エスイーで、のれん 152.5 億円と顧客関係資産 101.9 億円などをまとめて減損した。2025/3 期の純利益 34.7 億円は、営業利益ゼロのところへ 投資有価証券の売却益 58.7 億円が乗ったもの。2026/3 期は売却益が 57.8 億円減り、営業が戻ったのに 純利益は 53.7% 減った。

ドイツ子会社は減損のあとも重い。欧州セグメントには買収時に計上した無形資産の償却が年 10.1 億円 かかり、2026/3 期に黒字 (6.4 億円) へ戻ったばかりになる。無形資産の残高は 2026/3 末で 顧客関係資産 91.9 億円、技術資産 24.5 億円。前期末には減損の兆候ありと判定していた (このときは減損に至らず)。

期末 総資産 純資産
2024/3 1,191.42 794.02
2025/3 1,136.22 789.43
2026/3 1,114.00 803.91

2026/3 期末の自己資本比率は 72.2%。

第 1 四半期は受注が 5 割増え、会社は予想を上げた

2027/3 期の会社予想と、第 1 四半期 (2026-04-01 〜 2026-06-30) の実績。

項目 通期予想 Q1 実績 進捗 前年同期 前年比 前年の Q1 進捗
売上高 745.00 166.81 22.4% 134.96 +23.6% 22.7%
営業利益 85.00 18.40 21.6% 1.22 — 4.8%
経常利益 82.00 17.19 21.0% 1.31 — 5.2%
純利益 60.00 12.74 21.2% -0.38 — —

単位は億円。前年の Q1 進捗は、2026/3 期の Q1 実績を同期の通期実績で割ったもの。

会社予想は 2026-05-13 の本決算で売上 680 億円・営業利益 62 億円だった。第 1 四半期の発表と同じ 2026-08-07 に、売上 745 億円 (+9.6%)・営業利益 85 億円 (+37%) へ上げている。進捗は売上も 利益も 2 割強で、上げたあとの予想に対して先行してはいない。予想は下期に利益が厚くなる形を 置いている。

受注は売上より速い。第 1 四半期の受注高は 241.3 億円 (+55.7%) で、売上の 1.45 倍。受注残は 294.6 億円 (+45.6%) になった。

所在地 製品 Q1 受注高 前年比 受注残 前年比
日本 減速装置 88.57 +51.3% 71.46 +73.2%
日本 メカトロニクス 11.93 +58.8% 12.87 +41.1%
中国 減速装置 9.81 -27.8% 9.80 -5.4%
中国 メカトロニクス 1.49 +33.9% 1.19 +23.4%
北米 減速装置 26.63 +25.3% 52.59 +29.0%
北米 メカトロニクス 44.16 +336.2% 53.30 +176.2%
欧州 減速装置 43.09 +26.4% 69.47 +13.5%
欧州 メカトロニクス 15.55 +77.3% 23.85 +23.7%
合計 241.28 +55.7% 294.57 +45.6%

単位は億円。

目立つのは北米のメカトロニクスで、受注が 4 倍強になった。会社は「北米市場における手術支援 ロボット向けのまとまった受注」と説明している。日本は産業用ロボット向けと半導体製造装置向けで 受注が 5 割増えた。中国だけが産業用ロボット向けの減少で落ちている。

AI ロボットは受注の話として出てくるが、金額は出ていない

2026/3 期の本決算短信は、受注の増加要因の 1 つに「AI 技術を活用したロボット (AI ロボット) 向けの お客様の量産移行に伴う受注を獲得」を挙げた。北米セグメントは、防衛向けが減ったのを AI ロボット 向けが埋めて +4.1% になったとある。どの顧客か、いくらかは書いていない。第 1 四半期の短信に AI ロボットの語は出てこない。

同じ本決算で、会社は中期計画を取り下げた。2024 年 5 月に出した計画は 2026 年度に売上 900 億円、 営業利益率 15〜20% を掲げていた。これを、AI ロボット市場は「現時点においては創成期にある」 ため「社会実装の進展ペースについて想定との差異が生じつつある」として見直した。新しい計画は 2030 年度に売上 1,000 億円以上、営業利益率 15% 以上になる。重点分野は「AI ロボット」 「航空・宇宙・防衛」「e モビリティ」の 3 つ。

AI ロボットへの期待は会社自身が 4 年先に送った、と読める。今期の増益を引いているのは、 AI ロボットではなく、既存の産業用ロボット、半導体製造装置、手術支援ロボットになる。

2025/3 期に売上の 10.3% (57.3 億円) を占めた日産自動車は、2026/3 期に 10% を下回って記載から 消えた。車載向けは顧客の生産調整で減っている。

株価は 1 年で 2.3 倍になり、高値から 29% 下げた

2026-09-25 の終値は 6,300 円。時価総額は 5,964 億円になる (2027/3 期第 1 四半期決算短信の 期末発行済株式数から自己株式を除いた 9,467 万株)。PER や PBR は冒頭の指標の表にある。

年 安値 高値
2024 1,853 4,760
2025 2,328 5,200
2026 3,330 8,890

東証の日々の終値。2024 年は 1 月 4 日から。1 年前 (2025-09-26) の 2,690 円から 2.3 倍で、 直近 250 営業日の安値は 2025-11-18 の 2,503 円、高値は 2026-07-06 の 8,890 円。今は高値の 71%。

大きく動いた日を、同業と並べる。

日付 当社 ファナック 安川電機 何があったか
2025-12-04 +13.9% +13.0% +11.4% ロボット株が揃って上げた日。ファナックは 12-01 に NVIDIA との協業を発表していた
2026-04-27 +16.4% +16.0% +6.1% ファナックの本決算 (04-24 の引け後) の翌営業日
2026-05-14 -7.7% +4.6% +0.4% 当社の本決算 (05-13 の引け後) の翌日。予想は営業利益 62 億円
2026-05-15 +10.4% +2.4% -0.3% 前日の下げを取り戻した
2026-08-10 -10.9% -0.4% +1.9% 当社の第 1 四半期と上方修正 (08-07 の引け後) の翌営業日

騰落は前営業日の終値との比。2025 年 12 月と 2026 年 4 月の急騰は、ファナックと同じ日に同じ幅で 上げている。当社の材料ではなく、ロボット株として買われた日になる。一方で 2026 年 5 月と 8 月の 下げは当社だけで、どちらも自社の決算の翌日にあたる。8 月は予想を 37% 上げた翌日に 10.9% 下げた。 ファナックも同じ週に、上方修正の翌日に 14.3% 下げている。

高値を付けた日は同業でばらつく。ファナック 2026-05-25、安川電機 06-22、当社とナブテスコ 07-06。 その間に東証の全銘柄の中央値は上がっていて (07-06 → 09-25 で +3.1%)、市場全体の下げではない。 ロボット株は AI・半導体株の巻き戻しに同じ日に巻き込まれ、そのあと 7〜8 月の決算で期待が 剥げた。詳しくは フィジカル AI の地図 の「ロボット株が 下げた理由」に書いた。

株主は KODEN ホールディングスが 35% を持つ

2026/3 期の有価証券報告書、大株主の状況。

順 株主 比率
1 KODEN ホールディングス 35.37%
2 日本カストディ銀行 (信託口) 6.08%
3 伊藤 典光 3.21%
4 JP モルガン証券 2.40%
5 SMBC 信託銀行 (管理信託) 2.29%
6 BNY GCM CLIENT ACCOUNT JPRD AC ISG 2.19%
7 日本マスタートラスト信託銀行 (信託口) 2.10%
8 HSBC HONG KONG-TREASURY SERVICES A/C ASIAN EQUITIES DERIVATIVES 1.62%
9 GOVERNMENT OF NORWAY 1.30%
10 BNYM AS AGT/CLTS NON TREATY JASDEC 1.23%

上位 10 名で 57.8%。KODEN ホールディングスは当社の「その他の関係会社」で、議決権の 34.8% を 持つ。有報は事業内容を「KODEN グループへの出資を目的とした持株会社」と書く。3 分の 1 超を 1 社が握るので、特別決議は KODEN の賛成なしに通らない。国内の信託口は 2 つ合わせて 8.2% と薄い。

出し方

  • 指標は 2026-09-25 の終値で出した。時価総額は、直近の決算短信の期末発行済株式数から自己株式を 除いた株数を掛けた。予想 PER は会社予想の 1 株利益、PBR は直近の四半期末の自己資本 (株主資本と 評価・換算差額等の合計)、予想 ROE は会社予想の純利益を同じ自己資本で割った。手元資金の純額は、 直近の四半期末の現金及び預金と短期の有価証券から借入金を引いた (リース債務は含めない)
  • 業績は各期の有価証券報告書の「主要な経営指標等」と連結損益計算書。2027/3 期の予想と 第 1 四半期は 2026-08-07 開示の第 1 四半期決算短信、当初予想は 2026-05-13 開示の本決算短信
  • 売上総利益率と販管費は、2026-05-13 開示の本決算短信と 2026-08-07 開示の第 1 四半期決算短信の 連結損益計算書
  • 受注は 2026-08-07 開示の第 1 四半期決算短信の「生産、受注及び販売の状況」
  • AI ロボット、中期計画の見直し、減損の兆候の判定は 2026/3 期の有価証券報告書の「経営方針、 経営環境及び対処すべき課題等」「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の 分析」「重要な会計上の見積り」。2024/3 期の減損の内訳は 2025/3 期の有価証券報告書の連結損益 計算書関係の注記
  • 主要な販売先は各期の有価証券報告書の「生産、受注及び販売の実績」
  • 株価は東証の日々の終値。この期間に株式分割は無い。同業との比較は同じ日の前営業日比
  • 全銘柄の中央値は、2026-07-06 と 2026-09-25 の両日に終値がある東証の全銘柄

未確定

  • AI ロボットの顧客と受注額。 2026/3 期に「量産移行に伴う受注」を得たと書くが、顧客名も 金額も無い。北米の AI ロボット向けとあるので米国のヒューマノイドの会社が考えられるが、 確かめていない
  • 2026-08-10 の下げ。 予想を大きく上げた翌日に 10.9% 下げた理由。市場の予想に届かなかったのか、 高値からの売りなのか。ファナックの同じ週の下げとあわせて見たい
  • 手術支援ロボット向けの「まとまった受注」が一度きりか。 北米のメカトロニクスの受注 4 倍は これが引いている。次の四半期に続くかで、受注の伸びの読み方が変わる
  • KODEN ホールディングスが何者か。 有報には出資目的の持株会社とあるだけで、誰が支配して いるかは読んでいない。3 位の伊藤典光氏との関係も
  • 下期に利益が厚くなる前提。 通期予想の営業利益 85 億円に対し Q1 は 18.4 億円。残り 3 四半期で 平均 22 億円が要る。稼働率がさらに上がる前提か、値上げか