プライベートなナレッジ基盤の地図 — AI エージェントに社内の知識を読ませる工程
AI エージェントに社内の文書やデータを使わせるには、紙や PDF を読める形にし (精製)、検索できる知識にし (知識化)、エージェントを組み、国内や社内で動かす工程が要る。成長戦略はこれを「バーティカル AI」と「データプラットフォーム」の 2 項目で掲げ、データの海外流出を避ける「自律性」を急務とする。有報を横断すると、精製と知識化は時価総額 100 億円前後の小型株が製品として持ち、大手は自社 LLM と国内の計算基盤を持つ側に並ぶ。RAG を語る会社は多いが、ほとんどは受託の開発で、製品を持つ会社は少ない。GPU サーバーに事業を乗り換えた衣料やメディアの会社も目立ち、多くは足切りで落ちる。次に企業レポートにする候補は、企業内検索のブレインズテクノロジー、データ連携のセゾンテクノロジー、GPU 基盤のジーデップ・アドバンス。
問い
AI エージェントが仕事を任されるようになると、社内の文書やデータを読める形で持っていることが 前提になる。外に出せない知識を、社内か国内で AI に使わせる仕組みを、どの日本企業が作っているか。
きっかけは AI inside の企業レポート だった。同社は AI-OCR から 始めて、社内データを知識化する Leapnet と、国内 DC で推論を動かす Sovereign Grid に広げている。 同じ方向に準備している会社を工程ごとに洗い出す。
成長戦略での位置
日本成長戦略 (2026-07-21) は、このテーマを 3 つの 項目で扱っている。
| 項目 | 何と書いているか | 目標 |
|---|---|---|
| バーティカル AI (領域特化型 AI) | 現場知見をデータとして集積し AI に活用する。エージェント型 AI の浸透で付加価値が出る。他国への過度な依存はデータの海外流出に直結し、自律性の確保が急務 | 国内市場は 2030 年に約 3 兆円との予測。世界で 5 兆円以上の獲得 |
| データプラットフォーム | データを AI で使える状態にする「データ精製 (AI-Ready 化)」の重要性が増す。他国のプラットフォームに依存せず処理できる国内サービスが急務 | 国内の関連市場を 2035 年までに 5 兆円 |
| 政府・自治体の AX/DX 基盤 | 国産クラウド・SaaS、生成 AI・AI エージェントを率先して導入し、初期需要を作る。機密情報向けに「高機密ソブリンクラウド (仮)」を入れる | 調達の方法に 2026 年中に結論 |
国が「国産を率先して買う」と書いている点が大きい。自治体の帳票や行政文書は、AI-OCR と閉域の AI が最初に入る先になりうる。
工程
社内の知識を AI エージェントに使わせるまでを 6 つに割った。
| 工程 | 何をするか | 成長戦略の項目 |
|---|---|---|
| 精製 | 紙・PDF・FAX・図面を読み取り、AI が扱えるデータにする。システム間でデータをつなぐ | データプラットフォーム |
| 知識化 | 社内文書を検索できる知識にする。RAG、企業内検索、ナレッジ管理 | バーティカル AI |
| エージェント | 知識を使って業務をこなす AI を組む。受託の開発と製品の両方がある | バーティカル AI |
| モデル | 国産の LLM | バーティカル AI |
| 閉域の実行基盤 | 社内に置く AI サーバー、プライベートクラウド | 政府・自治体の基盤 |
| 計算 | 国内の GPU クラウドと AI データセンター | クラウド・データセンター |
工程ごとの上場企業
各社の最新の有価証券報告書から、「事業の内容」と「事業の状況」にこのテーマの語が出る会社を 拾い、文脈を読んで工程に割った。時価総額は億円、高値比は直近の終値を 250 日の高値で割ったもの、 営業利益は直近 2 期の通期で億円。太字は下の足切りで落ちた数字。
精製
| コード | 銘柄 | 何を持っているか | 時価総額 | 高値比 | 営業利益 前期 → 当期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 4488 | AI inside | AI-OCR「DX Suite」。シェア 1 位。社内データを知識化する Leapnet へ広げる | 84 | 64% | 3.9 → 3.1 |
| 5588 | ファーストアカウンティング | 請求書・領収書に特化した AI-OCR。2025 年 9 月に経理 AI エージェント | 101 | 66% | 1.8 → 2.9 |
| 173A | ハンモック | クラウド型 AI-OCR「DX OCR」(2024 年 10 月)。主力は営業支援などの別の業務ソフト | 67 | 94% | 7.9 → 8.3 |
| 3979 | うるる | AI-OCR と人手を組み合わせた書類のデータ化「eas」 | 128 | 98% | 7.6 → 9.3 |
| 7325 | アイリックコーポレーション | 紙を AI-OCR でテキスト化して探せる企業内検索「brox」。本業は保険 | 58 | 72% | 7.4 → 7.0 |
| 4052 | フィーチャ | AI-OCR と図面解析 AI | 59 | 76% | -0.1 → 0.4 |
| 4427 | EduLab | 手書きを読む AI-OCR「DEEP READ」。本業は教育テスト | 23 | 61% | -3.3 → 3.9 |
| 5591 | AVILEN | 帳票処理 AI エージェント「帳ラク」。企業の AI-Ready 化の支援 | 54 | 59% | 1.9 → 2.7 |
| 9640 | セゾンテクノロジー | データ連携ソフト「HULFT」。米子会社が RAG の Vectara、エージェント基盤の Opnova と提携 | 315 | 77% | 21.4 → 16.0 |
知識化
| コード | 銘柄 | 何を持っているか | 時価総額 | 高値比 | 営業利益 前期 → 当期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 4075 | ブレインズテクノロジー | 企業内検索「Neuron」と、社内データで答える生成 AI チャット。クラウドとオンプレの両方 | 85 | 78% | 1.7 → 2.5 |
| 4811 | ドリーム・アーツ | 業務プロセスに RAG とエージェントを組み込む。オンプレミス事業のセグメントを持つ | 103 | 63% | 7.7 → 9.7 |
| 9629 | ピー・シー・エー | 会計ソフト。電子文書管理「eDOC」の蓄積を顧客のナレッジ源にする研究 | 320 | 79% | 26.4 → 24.6 |
| 4370 | モビルス | コンタクトセンター向け。企業内ナレッジで回答案を作り、RAG のボットを出す | 27 | 71% | -3.5 → 0.9 |
| 598A | チャットプラス | FAQ「FAQPlus」が社内ナレッジから記事を自動で作る。RAG の検索精度を研究 | — | 51% | 3.7 → 5.3 |
| 4444 | インフォネット | 子会社アイアクトの RAG 型生成 AI「Cogmo Enterprise」。本業は CMS | 20 | 85% | 1.7 → 0.6 |
| 3640 | 電算 | AI 搭載ナレッジ管理「SmartKMS」。本業は公共と病院のシステム | 156 | 72% | 25.2 → 63.0 |
| 4058 | トヨクモ | ナレッジ管理「NotePM」。有報に AI 機能の記述は無い | 244 | 71% | 11.6 → 16.1 |
| 478A | フツパー | 完全オンプレミスで動く製造業向け RAG「ラクラグ」 | 75 | 55% | -0.7 → 4.0 |
| 2327 | 日鉄ソリューションズ | 文書と図面を結んで業務知識を引き出す統合ナレッジ基盤 | 7,109 | 83% | 385.0 → 442.4 |
| 7911 | TOPPAN ホールディングス | LLM と RAG で資料を探す「Con:tegration SEARCH」 | 13,800 | 84% | 850.7 → 671.1 |
エージェント
製品より受託の開発が多い。RAG を「対応できる技術」として挙げる会社はこの何倍もある。
| コード | 銘柄 | 何を持っているか | 時価総額 | 高値比 | 営業利益 前期 → 当期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3915 | テラスカイ | MCP 対応のエージェント「mitoco Buddy」。子会社 Cuon が社内に置く AI の箱を 11 月から出す | 295 | 65% | 14.5 → 15.6 |
| 4382 | HEROZ | 自社サービスに RAG とエージェントビルダー、MCP 連携を実装 | 152 | 72% | 3.1 → 5.2 |
| 4418 | JDSC | RAG とアクセス制御を組み込んだ実装が標準。ソフトバンクとエージェント開発で資本業務提携 | 178 | 64% | 5.8 → 6.4 |
| 7046 | TDSE | Dify で RAG を構築。ジーデップ・アドバンスと DGX のプライベートクラウドで提供 | 27 | 77% | 2.0 → 2.1 |
| 5029 | サークレイス | Salesforce の Agentforce の導入支援。社内ナレッジ横断検索を拡充 | 42 | 85% | 2.0 → 2.7 |
| 4261 | アジアクエスト | 「AQ-AI エージェント」シリーズとデータ基盤の構築 | 43 | 62% | 4.6 → 4.4 |
| 5586 | Laboro.AI | ローカル LLM の技術検証とエージェント構築のテンプレート | 149 | 91% | — → 1.9 |
| 4011 | ヘッドウォータース | エージェントによるワークフロー化と RAG の精度向上の案件 | 143 | 59% | 3.1 → 2.3 |
モデル、閉域の実行基盤、計算
| コード | 銘柄 | 工程 | 何を持っているか | 時価総額 | 高値比 | 営業利益 前期 → 当期 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 9434 | ソフトバンク | モデル、計算 | 国産 LLM「Sarashina」、ソブリンクラウド、国内の AI データセンター | 117,655 | 98% | 9,890 → 10,426 |
| 7752 | リコー | モデル、閉域 | 社内環境で動く「オンプレ LLM スターターキット」、金融特化 LLM | 9,506 | 96% | 638 → 907 |
| 5574 | ABEJA | モデル | LLM の開発。NEDO のエージェント構築の研究開発 | 320 | 96% | 2.9 → 4.5 |
| 5885 | ジーデップ・アドバンス | 閉域、計算 | NVIDIA の GPU 基盤を、オンプレ・レンタル・クラウドで出す | 174 | 91% | 8.4 → 11.2 |
| 3694 | オプティム | 閉域 | 病院向けにオンプレミスの LLM を載せた「OPTiM AI ホスピタル」 | 263 | 79% | 19.5 → 19.7 |
| 4447 | ピー・ビーシステムズ | 閉域 | プライベートクラウドと、ローカル LLM/SLM の環境整備 | 29 | 82% | 3.6 → 1.2 |
| 4716 | 日本オラクル | 閉域 | クラウドとオンプレの両方で、顧客データを使う生成 AI | 12,675 | 65% | 868 → 898 |
| 3778 | さくらインターネット | 計算 | 国内の GPU クラウド「高火力」 | 1,501 | 87% | 41.5 → -4.0 |
| 4784 | GMO インターネット | 計算 | GPU クラウド | 1,676 | 48% | 1.4 → 82.2 |
| 3905 | データセクション | 計算 | AI クラウドスタック「TAIZA」、GPU クラウド、AI データセンター | 662 | 34% | -5.0 → 35.4 |
| 285A | キオクシアホールディングス | 部品 | SSD でベクトル検索する「AiSAQ」を RAG 向けに出す | 305,683 | 51% | 4,518 → 8,704 |
GPU に乗り換えた会社
本業と別に GPU サーバーや AI データセンターを始めた会社が 6 社あった。
| コード | 銘柄 | 元の本業 | 時価総額 | 高値比 | 営業利益 前期 → 当期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3083 | スターシーズ | 衣料品。蓄電池と GPU サーバーを加えた | 102 | 88% | -2.8 → 1.8 |
| 2334 | イオレ | ネットメディア。暗号資産も | 247 | 85% | -0.2 → 2.1 |
| 5026 | トリプルアイズ | AI 受託と GPU サーバーの販売 | 51 | 61% | 0.4 → -0.6 |
| 2776 | 新都ホールディングス | アパレルと貿易 | 51 | 62% | 0.4 → 5.9 |
| 2321 | ソフトフロントホールディングス | 通信ソフト。クリーンエネルギーも | 73 | 34% | 0.3 → -1.2 |
| 2338 | クオンタムソリューションズ | AI ゲーム | 54 | 13% | -4.8 → -7.0 |
足切り
バックテストのまとめ で残った「高値から遠い銘柄はさらに 下がる」を使った。加えて赤字の会社を落とした。
- 高値比が 60% 未満 (250 日の高値から 4 割以上下げている)
- 直近の通期が営業赤字、または 2 期続けて最終赤字
60% の線は、今回置いたもの。バックテストは順位で測っていて、線を検証してはいない。
落ちたのは 12 社。AVILEN、チャットプラス、フツパー、ヘッドウォータース、さくらインターネット、 GMO インターネット、データセクション、キオクシア、トリプルアイズ、ソフトフロント、 クオンタムソリューションズ、イオレ (2 期続けて最終赤字)。上の表の太字が落ちた理由になる。 計算の工程は、GPU クラウドの 3 社がそろって落ちた。
読み
精製と知識化は、時価総額 100 億円前後の小型株が製品として持っている。 AI-OCR、企業内検索、 FAQ、ナレッジ管理。どれも AI エージェントの前に要る「社内の知識を読める形にする」部分で、 大手はここを製品として前に出していない。大手 (ソフトバンク、リコー、日鉄ソリューションズ) は 自社の LLM や国内の計算基盤を持ち、上流から下流までを受注する形になる。
RAG を語る会社は多いが、製品にしている会社は少ない。 有報で RAG に触れた会社の多くは、 「RAG の構築に対応できる」という受託の開発会社だった。製品の名前を出しているのは、 知識化の表に並べた会社くらいで、なかでも本業にしているのはブレインズテクノロジーとチャットプラスになる。
成長戦略の「データ精製 (AI-Ready 化)」に最も近いのは、AI-OCR の会社と、データ連携の セゾンテクノロジー。 AI-OCR は紙を、HULFT はシステムに散らばったデータを、AI の前に そろえる。国が 2035 年に 5 兆円と置く市場の入口にあたる。
AI inside はこの地図で珍しい位置にいる。 精製 (DX Suite)、知識化 (Leapnet)、モデル (PolySphere)、閉域の実行基盤 (Cube) を 1 社で持つ小型株は、ほかに見当たらない。裏返すと、 時価総額 84 億円で 4 つの工程に手を広げている。
GPU に乗り換えた会社は、テーマの熱の高さを示す。 衣料品やアパレルの会社が GPU サーバーを 始めている。半分は足切りで落ちた。残った会社も、本業の稼ぐ力とは別の話になる。
次に企業レポートにする候補
足切りを通り、工程の中で事業の純度が高い会社から 3 つ選んだ。
| コード | 銘柄 | 工程 | 選んだ理由 |
|---|---|---|---|
| 4075 | ブレインズテクノロジー | 知識化 | 企業内検索が本業で、純度が最も高い。オンプレにも出せる |
| 9640 | セゾンテクノロジー | 精製 | 成長戦略のデータプラットフォームにそのまま当たる。ただし直近は減益 |
| 5885 | ジーデップ・アドバンス | 閉域、計算 | 計算の工程で唯一足切りを通った。TDSE と組んでプライベートクラウドを出す |
出し方
- 母集団は、2025-06-01 以降に提出された各社の最新の有価証券報告書 3,932 社。「企業の概況」と 「事業の状況」の本文を読み、工程ごとの語 (AI-OCR、AI-Ready、RAG、ナレッジ基盤、AI エージェント、 大規模言語モデル、オンプレミス、ソブリン、GPU など) の出現を数えた。何か 1 つでも出たのは 530 社
- そこから語の組み合わせで 194 社に絞り、上位 75 社の文脈を読んで、提供する側か使う側かを 判断した。使う側 (自社の業務に RAG を入れた会社など) は外した。75 社より下は読んでいない
- 時価総額は 2026-09-25 の終値と、直近の決算短信の表紙にある期末の発行済株式数 (自己株式を除く) から出した。高値比は東証の日々の終値 (株式分割を調整した値) で、直近 250 日の高値に対する比
- 営業利益は有価証券報告書と決算短信の通期の実績。決算期は会社ごとに違う
- 成長戦略の項目は、内閣官房の日本成長戦略 (2026-07-21) の本文「バーティカル AI」 「データプラットフォーム」「セキュリティの確保された政府・地方公共団体の AX/DX 基盤」から引いた
未確定
- NTT、KDDI、NEC、富士通の国産 LLM と閉域の AI。 有報で AI エージェントの語は多く出たが、 今回読んだ上位 75 社に入らず、文脈を確かめていない。モデルと閉域の工程は大手が厚いはずで、 この地図はそこが薄い
- 上場していない会社 (ELYZA、Preferred Networks、ストックマークなど) は地図の外にある。 上場企業との提携先としてだけ現れる
- 工程ごとの売上の規模。どの会社も、このテーマの売上をセグメントで分けていない。純度は有報の 書きぶりから判断した
- 有報の本文に出ない会社の取りこぼし。有報は年 1 回で、2026 年に入ってから始めた事業は 次の有報まで出てこない。短信や適時開示で補える
- 政府の「高機密ソブリンクラウド (仮)」を、どの事業者が受けるか。2026 年中に調達の方法を決める
- 足切りの線 (高値比 60%) を検証していない
この地図から辿った企業
- AI inside (4488) — 伸びが鈍った AI-OCR の会社 (2026.09.27)