kessannote

日本成長戦略 (2026) を読む — 国のお金は特定国依存からの脱却とフィジカル AI に向かう

17 の戦略分野と 62 の製品に、2040 年度までの官民投資 370 兆円超を見込む国の計画。予測ではなく目標だが、特別会計と複数年度の予算で「お金を出す」仕組みまで決めている点で、ARK や NRI より確かさが高い。62 の製品を貫く一番太い線は、特定国 (事実上中国) への依存を減らす危機管理投資で、採算より安全保障で決まるので景気に左右されにくい。ARK・NRI と揃うのはフィジカル AI (AI ロボット)、半導体、データセンター、蓄電池、宇宙、物流倉庫。食い違うのは量子、水素、洋上風力で、国は正面から掲げる。世界シェア 3 割の目標が並ぶなど数字は願望に近く、方向として読み、規模は割り引く。

出典

内閣官房の 日本成長戦略 (2026-07-21、75 ページ) と、その 概要の参考資料。 2026-09-27 に読んだ。高市内閣の成長戦略で、日本成長戦略会議の下で毎年見直す。

経済産業省の 経済産業政策新機軸部会 第 5 次中間整理 (2026-06-03) も冒頭だけ読んだ。経産省が 4 年間掲げてきた 8 つのミッション (GX、DX、経済安全保障 など) は抽象度が高く、この成長戦略への材料という位置づけになっている。散策の地図としては成長戦略 の方が具体的なので、こちらを主にした。

予測の要旨

これは予測ではなく、国の目標と、それを実現するための投資計画である。

骨格。 国内投資を起点に成長軌道へ戻す。投資には 2 種類ある。

  • 危機管理投資: 経済安全保障、食料、エネルギー・資源、医療、国土強靱化、サイバーのリスクに、 先手を打って投資する。狙いは「自律性」(他国に頼らない) と「不可欠性」(他国から頼られる)
  • 成長投資: 日本が優位な先端技術を事業にする

加速装置は AI トランスフォーメーション (AX)、とりわけ製造業や医療・物流の「現場データ」を 生かしたフィジカル AI。

62 の製品。 17 の戦略分野の中から、国が官民投資を優先して支援する具体的な製品・技術を 選んだもの。政府の呼び方は「62 の主要な製品・技術等」で、この記事では「62 の製品」と縮める。 選ぶ観点は、国内の経済安全保障などのリスクを減らす必要、海外市場を取れる見込み、技術の革新性 の 3 つ。一つ一つに「官民投資ロードマップ」(重要性、勝ち筋、目標、施策、官民の投資額) があり、 下の 370 兆円はその投資額の合計。分野ごとに 1〜7 個あり、足すと 64 になるが、バイオ医薬品と グリーン鉄が 2 分野に重複して載るので 62 になる。

お金の規模と出し方。

項目 中身
官民の国内投資 62 の製品で 2040 年度までに累計 370 兆円超
国内民間設備投資 2040 年度に年 250 兆円 (官民目標)
名目 GDP 2040 年度に 1,100 兆円に迫る (経済効果の試算)
研究開発投資 2026〜2030 年度の合計で官民 180 兆円
予算の出し方 『「強く豊かな日本」投資枠』を新設。重要分野は特別会計で別枠にし、複数年度で財源を確保する。概算要求の上限 (シーリング) を設けない

17 分野の主な見通しと目標。 各製品には市場見通し (「との予測もある」と出どころの書かれて いないものが多い) と、国の目標が付いている。散策に関わりそうなものを抜き出した。

分野 製品 市場見通し 国の目標
AI・半導体 AI ロボット 2040 年に約 60 兆円 2040 年に世界シェア 3 割超、20 兆円
AI・半導体 フィジカル AI の半導体 (先端に加えセンサー・マイコン等) 国内生産の半導体売上を 2030 年 15 兆円、2040 年 40 兆円
デジタル クラウド・データセンター 国内で足元 4 兆円、年 20% 超で拡大 国内クラウド市場を 2035 年までに 30 兆円
デジタル 蓄電池 関連売上を 2035 年に 3 倍
デジタル 自動運転 今の自動車市場以上 2030 年代に世界販売シェア約 25%
情報通信 オール光ネットワーク 光通信関連で 2030 年に約 53 兆円 光伝送装置で 2030 年に世界シェア 10%
情報通信 海底ケーブル 2024 年 5,000 億円 → 2030 年 7,500 億円 世界シェア 35% 程度
量子 量子コンピュータ 2040 年ごろ 14 兆円以上 2030 年ごろに 1 万物理量子ビット超の国産機
防衛産業 小型無人機、艦艇 防衛省に供給できる国内基盤。民生で 2030 年に 8 万台
航空・宇宙 ロケット・人工衛星 宇宙利用で 2030 年代に世界 約 150 兆円 衛星の国内打上げ比率を 60〜80% 以上。衛星関連で 2040 年に約 12 兆円
造船 次世代船舶 ゼロエミッション船・自動運航船が 2035 年に建造需要の約 6 割 2035 年に国内で 1,800 万総トン建造、約 5 兆円
マテリアル 永久磁石 ネオジム磁石の需要が 2017 年 0.6 万トン → 2040 年 16.1 万トン 2030 年の国内需要分の生産能力を確保。原料の約 3 割をリサイクルで
マテリアル 半導体・航空機エンジン向け金属 2030 年に世界シェア 8 割 (半導体回路向け)、5 割 (エンジン向け)
マテリアル 重要鉱物の製錬・分離精製 2030 年にベースメタルの自給率 80% 以上。電解銅の約 3 割を再生資源から
バイオ バイオものづくり、バイオ医薬品 2040 年に日本企業の売上 11.9 兆円、33.4 兆円 (いずれも世界シェア 10%)
創薬・先端医療 医療機器 世界 約 80 兆円、日本は 0.7 兆円の輸入超過 2040 年に日本メーカーの獲得市場 28 兆円
エネルギー・GX ペロブスカイト太陽電池 太陽電池は特定国が約 8 割。主原料のヨウ素は日本が約 3 割 2040 年までに国内 約 20 GW
エネルギー・GX 水素等 水素・アンモニア関連が 2050 年に 30〜40 兆円 2030 年に年 300 万トン、2050 年に 2,000 万トン。ガスタービン・水電解装置などの輸出で 2050 年に年 10 兆円
エネルギー・GX 洋上風力 アジア・欧州で 2040 年に約 200 GW 2040 年までに国内調達比率 65%
エネルギー・GX 次世代革新炉 2040 年代以降に国内の原子力の供給力が大きく減る 海外案件への参画と国内の開発・設置
フュージョン 核融合 2030 年代に発電実証
防災 防災技術 海外売上を 2024 年 約 1 兆円 → 2030 年 約 2 兆円
港湾ロジスティクス 次世代型倉庫 港湾周辺に 2030 年代までに普通倉庫 200 万 m²、冷蔵倉庫 40 万設備トン
フードテック 植物工場、陸上養殖 2040 年に世界 55 兆円、31 兆円 世界シェア 3 割
コンテンツ ゲーム、アニメ、マンガ ゲームが海外売上 3.4 兆円 2033 年に海外売上 20 兆円 (うちゲーム 12 兆円)

防衛は、国家安全保障の三文書を 2026 年中に改定するとある。

読み

構図。 17 分野を並べると、何でも入った総花に見える。しかし 62 の製品の「重要性」の欄を読むと、 一番多く出てくる言葉は「特定国への依存」「自律性の確保が急務」だった。半導体、永久磁石、レアアース の精製、蓄電池の材料、太陽電池、小型無人機、港湾のクレーン、抗菌薬の原料、海底ケーブル。どれも 「今は特定国 (事実上中国) に握られていて、止められたら困る」ものである。この計画の一番太い線は、 技術の夢ではなく、止められたら困るものを国内に取り戻す危機管理投資だと読む。

腹落ちした点。

危機管理投資は、採算ではなく安全保障で決まる。高くても国内で作る、という判断なので、景気や 市況で止まりにくい。ARK が「コストが下がるから伸びる」、NRI 年表が「人がいないから伸びる」 なら、これは「止められたら困るから国が払う」。3 つ目の、理由の違う推進力になる。

お金の出し方まで決めている。特別会計で別枠にし、複数年度で財源を確保し、シーリングを設けない。 NRI 年表の記事で「目標より予算の方が確か」と書いたが、この計画は目標と予算の仕組みを同時に 出している。ARK や NRI より、実際にお金が動く確かさは高い。

ARK・NRI と揃うところが多い。

テーマ ARK NRI 年表 成長戦略
AI ロボット・自動化 人型ロボットが 2028 年に人並み 人手不足 2040 年に 20 兆円、世界シェア 3 割
データセンター 投資が 2030 年に約 1.4 兆ドル 国内市場が 2027 年に 4.2 兆円 国内クラウドを 2035 年に 30 兆円
蓄電池 定置用蓄電が 19 倍 関連売上を 2035 年に 3 倍
宇宙 打ち上げ費用が 100 ドル/kg へ 宇宙産業 8 兆円 衛星の国内打上げ 60〜80%
物流倉庫 冷蔵倉庫が 10 万トン不足 冷蔵倉庫 40 万設備トンを整備

3 つの資料が別々の理由で同じものを指している。フィジカル AI と自動化、データセンター、蓄電池は、 散策の最優先に置いてよい。

疑う点。

数字の多くは願望に近い。「世界シェア 3 割」の目標が AI ロボット、海洋ドローン、植物工場、 陸上養殖、量子通信、核融合と並ぶ。市場見通しにも出どころの書かれていないものが多く、空飛ぶ クルマは 2040 年に世界 200 兆円とある。方向として読み、規模は大きく割り引く。

量子、水素、洋上風力は、国が正面から掲げる。量子は 2030 年ごろに国産機、2040 年ごろに市場 14 兆円。ARK は量子を 20〜40 年先と切った。水素は 2050 年に年 2,000 万トン、洋上風力は国内 調達比率 65%。こちらは脱炭素が進まない前提に立ち、この 2 つを避けると決めている (NRI 未来年表の読み)。 ここは国の方針と自分の読みが分かれる点としてはっきり残しておく。国の予算は付くので、補助で 事業が動くことはある。しかし市場として自走するかは別と見る。

ただし、水素の項目にはガスタービンが入っている。ガスタービンは水素でも天然ガスでも回るので、 水素が育たなくても電力需要の伸びで売れる。避けるのは水素そのもので、ガスタービンは電力の側 として見る。原子力 (次世代革新炉) も国が支える。「2040 年代以降に原子力の供給力が大きく減る」 と国自身が書いていて、電力が足りなくなる読みと合う。

地政学に強く依存している。中東情勢でエネルギーの備蓄を強めるとあり、特定国依存の話も国際関係 しだいで重みが変わる。対立が和らげば、危機管理投資の勢いは落ちうる。

当たりの目印

時期 目印 進んでいるなら
2026 年中 防衛の三文書の改定 予定どおり改定され、防衛費の水準が上がる
2026 年 12 月 2027 年度予算案 『「強く豊かな日本」投資枠』が特別会計で別枠として付く。規模は複数年度の額で見る
2028 年度 200 床以上の病院の電子カルテ 普及率 100%
2030 年 国内生産の半導体売上 15 兆円
2030 年 水素の導入量 年 300 万トン。届かなければ、国の目標だけの話という読みが当たっている
2030 年代 核融合の発電実証 実証炉で発電する
2035 年 国内クラウド市場、蓄電池の関連売上 30 兆円、今の 3 倍
2040 年 AI ロボットの市場 日本企業で 20 兆円

恩恵を受ける工程

この計画は ARK と違い、日本企業が主役になる。工程は、お金が確かに動く順に並べた。

推進力 工程
特定国依存からの脱却 永久磁石、レアアースや電池材料の製錬・分離精製、リサイクル (電解銅、アルミ)、半導体向けの高機能金属、港湾のクレーン、ドローンの重要部品、抗菌薬の原薬
防衛と造船 艦艇、無人機、次世代船舶、船舶修繕、LNG 運搬船
AI の基盤 データセンターの建設と運営、光伝送装置、海底ケーブル、センサー・マイコンなどのアナログ半導体
自動化 AI ロボットと重要部品 (減速機、サーボ、センサー)、次世代型倉庫・冷蔵倉庫、港湾荷役機械
電力 ガスタービン、次世代革新炉、蓄電池。水素と洋上風力は外す
宇宙 ロケット・射場、衛星の部品とデータ利用

散策の順は、3 つの資料が揃った自動化と AI の基盤 (データセンター、半導体) を先にし、電力を 続ける。そのあと、この計画で新しく見えた特定国依存からの脱却と、防衛・造船に入る。後の 2 つは ARK にも NRI にも無かった推進力で、予算の裏付けが最も強い。

見直し

2026-09-27 に本文を確定した。以後、本文は書き換えず、ここに日付つきで追記する。

この予測から辿った記事